【生化学実験】あなたは、お酒に強いですか?弱いですか?
生化学実験担当者の小嶋です。学生の皆さんには、2週間3回に渡って、ヒト遺伝子の1塩基多型(single nucleotide polymorphism)について、実験を通して学んでいただきました。今回はその様子をお伝えしましょう。
皆さんは、周りの大人のヒトには、お酒に強いヒトと弱いヒトがいることをご存じですか(正確にはその中間のヒトもいる)。お酒に対する強さは、気合いや根性などで決まるのではなく(多少の影響はありますが)、実は遺伝子型でほぼ決まっているのです。
お酒(アルコール)は、肝臓でアルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)とアルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH)という2つの酵素によって分解されます。この2種類の酵素の活性は、人種によって異なることが知られ、アルコールに対する強さの人種差を生み出しています(残念ながら、日本人はお酒を多飲した時に、二日酔いになりやすいです)。
2つの酵素(ADHとALDH)の遺伝子には、いずれも1塩基多型が存在しますが、今回はミトコンドリアに存在するALDH2という酵素の1塩基多型による野生型(wild, normal)と変異型(mutant)について調べてみました。
さて、実験手順の説明をしましょう。
①被験者の方から、髪の毛を1本いただく。
②その髪の毛の根本付近からDNAを抽出する。
③抽出したDNA中のALDH2を2組のプライマーを用いてPCRによって増幅させる。
④アガロースゲルを作製する。
⑤アガロースゲル電気泳動を行う。
⑥蛍光検出によって、野生型(ALDH2-1)と変異型(ALDH2-2)の遺伝子の有無を調べる。
こんな感じで進めました。
①被験者の髪の毛を細かく切り刻む。
②DNA抽出の準備はバッチリ! DNA抽出を行う。
③PCRで目的遺伝子を増幅する。
④アガロースゲルを作製する。
(アガロースタブレットを砕いて、溶解しやすくしている様子)
(出来上がったアガロースゲル)
⑤アガロースゲル電気泳動を行う。
⑥インターカレート試薬(ここではエチジウムブロマイド)を用いて蛍光検出を行う。
(まずはインターカレート試薬をDNA分子間隙に侵入させる。)
(UV照射・蛍光検出装置:これで電気泳動後のアガロースゲルを見てみる。)
(今回は、コロナ禍での2グループ制での実施のため電気泳動の時間を短くしています。)
分かりづらいので、・・・・・・
赤線枠のところに、少し発光が見られると思います。左側が野生型ALDH2-1、右側が変異型ALDH2-2です。この被験者は、ALDH2-1とALDH2-2の両方をもっているので、お酒(アルコール)に対する強さは中間型(ALDH2低活性型)といえます。
もうお気づきかと思いますが、遺伝的にお酒に強いヒト(ALDH2活性型のヒト)は、この実験では左側にしか、発光バンドが現れません。逆に、お酒に超弱いヒト(ALDH2不活性型のヒト)は、右側にしか発行バンドが現れません。
お酒に強いタイプのヒトほど、アルコール依存症になる危険性が高いと言われているようです。学生の皆さんには、自分がどのタイプであれ、飲酒は自重していただきたいと私は思います。
なお、DNA抽出→PCR→電気泳動→判定を行った被験者を含め、全員アルコールパッチテストを実施しました。勿論PCR・電気泳動での判定結果とパッチテストの結果とは、よく一致していました。
学生の皆さん、この一連の実験で、少なくてもアガロース電気泳動とインターカレート試薬による蛍光発光くらいは印象に残ったでしょうかねぇ。
お酒に弱いタイプのヒト(ALDH2不活性型のヒト)でもお酒に強くなる方法があります。それは生化学Ⅱの授業の中でお話しています。
それでは、次回の生化学実験をお楽しみに!
記事:小嶋文博
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