冬休みは、読書をするのに良い機会です。なぜならば、年末の年賀状や年始の論文など書くことを少し放っておいて、日々忙殺される中、ほんの少しとまとまった時間が取れる良い機会だからです。
読もうと思って購入した本の山を横目に、久しぶりに「独創は闘いにあり」(西澤潤一 元東北大総長)を読み返しました。具体的には、大学生の時に読んで以来だったのでおよそ30年ぶりに読み返しました。西澤先生は半導体デバイスの世界では顕著な業績を沢山築かれた方です。読み進めると、研究の原点は「憤り」と言うことに気が付きます。何かに対する反骨精神は研究を進める上で重要なことです。今の自分を鑑みると、その反骨精神が薄れつつあることを思い知らされる良い機会になりました。名著は、何回読んでも新たなる気付きがあります。日々忙殺される中で、流されていた自分に楔を指してくれます。
こういうことが読書の良いところです。なぜ、こんな経験ができるのか、、、元リクルートで「よのなか科」を広めた藤原和博さんの著書「本を読む人だけが手にするもの」の中にもありましたが、読書は、著者の経験を疑似体験できることが素晴らしいことだと痛感します。自分も研究者の端くれと自負していますが、今回の読み返しは、世界の先端を走っていた研究者である西澤先生の思考を疑似体験したことで「刺激」を受けたわけです。
本を読むと、ものの見方が何となく分かってきます。偉いヒト、権威のあるヒトが言っていることが正しいとは限りません。その最たるものが大学の教員の言っていることです。サイエンスは日進月歩です。自分のこと言うのはおこがましいですが、脂質栄養学を研究テーマにしている私にとって、脂肪酸は血液脳関門を通らない、よって機能性のある脂質は脂肪酸の構造では脳に運ばれないと思っていました。また、そう教えていました。しかし、最近の論文を漁ると、少量の脂肪酸は脳内に運ばれることが立証されています。このように数年前に言っていたことが、もう「嘘」という悪質なものではないですが陳腐化していることはしばしばです。だらか、研究者(教員)は常に謙虚に真摯に学問に接しないといけないし、更に権威に対する反骨精神は失ってはいけないのです。このため、今回の読書は二重の意味で良かったかなと思った次第です。とにかく、大学の先生の言っていることは疑いましょう!
学生のマインドはそれくらいで丁度良いように思います。
ここで、唐突ですが、ふと思い出しました。ここの示した2つの世界地図。日本人は左側の地図を見慣れていますが、世界の常識は右側の地図です。この地図を見て、率直にあることを感じ、その感じたことを立証した研究者がいます。その名は、アルフレート・ロータル・ヴェーゲナー(Alfred Lothar Wegener、1880 - 1930)です。彼は、大陸移動説を提唱したドイツの気象学者。現在でいう地球物理学者です。彼は、この右側の世界地図を見て、単純にそして率直に大陸は太古の昔は1つで、これが移動して(引きちぎられて)今の大陸の形を作ったと考えました。確かに西アフリカがカリブ海にはまり込み、南米の東側とアフリカの西側はジグソーパズルのように嵌りそうです。グリーンランドもカナダの東側とスカンジナビア半島と合体しそうです。
しかし、当時の学会ではウェーゲナーの突飛な発想は到底受け入れられるわけもなく、陽の目を見ずに彼は50歳という若さでこの世を去ります。しかし、彼の死後からおよそ30年経つとマントル対流仮説が登場します。岩盤はそもそも固体ですが、これに強い力が相当量の長い年月加わると可塑変形し、流動性を持つ。この流動性が大陸を移動させた原動力であったとする仮説です。その後、古地磁気学が登場します。地殻である岩石などに残留磁化として記録されている地磁気を解析していくと大陸が移動したと仮定しない限り、立証できないことが幾つも出てきました。この流れによってウェーゲナーの大陸移動説は再評価され、日本だと小松左京さんの「日本沈没」へとつながっていきます。
失意のどん底でこの世を去った反骨の地質学者の著書「大陸と海洋の起源」が復刻されました。彼を疑似体験するためには、これを読まないわけにはいきませんね。(笑) と、言う感じで冬休み、その次は、春休み、、、そして夏休み。皆さん、出来るだけ名著と言われるものをたくさん読んで、著者の体験を疑似体験してみて下さい。と、いう訳で「読書のススメ」でした。
記事:大久保 剛
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